第3話・『相棒』

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. 「なんか今、嫌なこと考えちゃった…」 塗装の禿かけたジャングルジムを見ながら、そう言った佐倉くんは真顔だった。 「嫌なことって?」 「なんかおかしいと思ったんだよね、その子。 俺が書いてた小説の、数少ない読者の1人だったんだけど… そう言えば、急に何の音沙汰もなくなったのが、アバターの顔が歪んでからだったと思う… 携帯止まったのかな?とか、病気になったのかな?とか、いろいろ考えたんだけどさ。 今、ふっと思っちゃったんだ…… もしかしたらあの子もあの後、自殺しちゃったんじゃったんじゃないのかな……って」 まさか、とは思った。 それはいくらなんでも考えすぎで、紗耶の件と無駄に関連づけすぎている。 これじゃあまるで紗耶の自殺が、あのアバターのバグに起因するみたいな言い方じゃないか。 けれども佐倉くんは、当時よほどその子の様子が気になったらしく、神妙な顔で自分のスマホを取り出した。 「俺の4年前のブログに、その子との会話が残ってるんだ。 ほら、コメント帳は字数制限されるから、俺らはブログを使って雑談してたんだよね」 今はたまにしかブログの更新を見ない佐倉くんだけど、何年か前までは相当のブロガーだったらしい。 古い履歴をかれこれ5分くらい探したところで、 その子の痕跡が残る最後のブログにたどり着いた。 「ほら…やっぱりなんか変なんだよなぁ…」 言いながら手渡された佐倉くんのスマホで、 わたしは2年前の12月の日付が残る文面を目で追う。 内容は…… 別段おかしなこともない、ごく普通のものだ。 【紫焔】という中二病丸出しハンネの佐倉くんが、ランキング上位に恋愛物ばかりが来ることを嘆いている。 それに対して、ケータイ小説ユーザー層を考えれば仕方ないというコメントの、【卍郎】と【未咲】。 【remon】という人が、【紫焔】も恋愛書いてみれば?とすすめ、 【紫焔】は経験がないとうなだれる。 他にも何人かのハンネがちょこちょこコメントしてたけど、 まぁ、いたってどこにでもありそうな会話。 けれども、後半。 不穏に一変したやり取りに、わたしは瞬きも忘れて画面に食いついていた。 .
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