第3話・『相棒』

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. わたしの頭の中で、ひとつのハンネが激しく脈打っていた。 “星影レイミ” 紗耶のコメント帳にあった、書き手の名前と同じ。 その書き手が、何年も前に自殺している? では、【すぴん】に書き込みを残した星影レイミは、また偽物なのだろうか? 佐倉くんの友達だった【未咲】って子も、【星影レイミ】の小説を読んでいて、 そしてアバターの顔が突然歪んだ。 佐倉くんが言うには、未咲ちゃんは以降『どりんくば~』に現れないまま、数日後には突然退会していたらしい。 偶然の一致で片付けるには、あまりにも出来すぎている気がする。 これって…どういうことなのか? 頭が混乱してくる。 (もしかして、紗耶ちゃんの幽霊がこれを書き込んだりして) 竹内さんの言葉が蘇った途端、急激に背筋を駆け巡る悪寒。 スマホを持つ手が、急速に冷えていく。 「ね、おかしいでしょ? 既に死んじゃった人の小説読んでるとか言い出してさ。 精神状態ちょっと大丈夫かなって… あれ、梅田さん…? どうしたの?」 「紗耶も… 紗耶もね、星影レイミの小説読んでたみたい…… 【すぴん】のコメント帳に、星影レイミからの書き込みがあって…」 急に顔色が変わった佐倉くんは、急いで【すぴん】のマイページを確認し、 確かにわたしの言った通りの書き込みを凝視したまま、しばらく無言になってしまった。 「佐倉くん…なんか怖い…」 少し考え込んでいた佐倉くんが、思い立ったようにスマホを操作し始めた。 「何してるの?」 「『どりんくば~』のサポートセンターに問い合わせのメールを打ってる。 【すぴん】の顔が歪んだのが、アイテムなのかバグなのか。 あと、コメント帳の時刻表示のズレについても、システムの不具合だったのか」 トップページの運営からのお知らせには、不具合の報告なんてなかった。 だとしたら、ごく一部の小さな障害で、報告するまでもないと考えたのかもしれない。 でも、もしそうでなかったなら…… わたしの視界には、公園のモニュメントが映っていた。 奇妙にうねくったブロンズの、不可解な形。 何を表現しようとしたのか、 どんな意図で造られたのかもわからない。 ただ、今のわたしには、 それが無性に心を掻き乱されるカタチに映っていた。 .
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