第4話・『蠢動』

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. 重い雲間から時折覗く月明かりが、 周囲に鬱蒼とした木々の影を浮き上がらせている。 わたしは1人、見知らぬ森の中にいた。 方向の感覚もわからず、なんで自分がこんな場所にいるのかも理解できない。 辺りには陰鬱な空気が満ち溢れ、 どこからか視線を感じるような、暗がりの壁。 とにかく怖くて、 一刻も早くここから抜け出したくて、 わたしはひたすら、道もない森の中を突き進んでいた。 どれほどかさまよい歩いていると、 月明かりは前方に、小さな小屋のような建物を映し出した。 それはかなり傷んだ古い木造で、倉庫か何かのように思われる。 森の中に忽然と現れた人工物だけど、近くに民家があるという期待感は、なぜかまるでなかった。 それどころかその小屋は、絶望の象徴のように虚ろな外観で、わたしの行く手を阻んでいるのだ。 逃げなきゃ── ここにいてはいけない── そう叫ぶ本能とは裏腹に、そこからわたしの足は根が生えたように動かない。 瞬きさえも禁じられた目は、小屋の朽ちかけた扉に釘付けられたまま離れない。 極めてゆっくりと、 極めて微量ずつ。 扉が、音もなく開いていくのだ。 まるで、わたしの神経をじわじわといたぶるようなスピードで、 わたしの恐怖心を、焦らして楽しむようなスピードで。 誰かが中から出て来る。 それは決して、わたしを安心させるような存在じゃないと、 理論よりも色濃い直感が騒ぎ立てる。 “ダメだっ! 見てはいけない!” そう命令を下したはずの脳波をまるで無視し、ピクリとも閉じない瞼は、 その先に何者かの姿をとらえていた。 扉の奥から、ぬぅっとこちらを覗く真っ黒いシルエットがあった。 女性と思しき長い髪と、腰の辺りから大きく膨らんだスカートのようなカタチ。 ヒト…なのだろうか? 確かにそれは人の形をしているものの、明らかに等身のバランスがおかしかった。 異様なほど頭が大きいのに対し、胴体が小さすぎるのだ。 得体の知らない存在が、じっとこちらを見つめたまま、 ゆっくりと、 ゆっくりと、 小屋の中から練り出してきていた。 懸命に声を出そうとするけど、 喉が圧迫されたようにままならい。 それでも頭の中で暴れ狂う恐怖が、 わたしにがむしゃらな力を奮い立たせ、 やがて、ついに喉を開通させたのだった。 「いやああぁあぁーっ!!」 .
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