第4話・『蠢動』

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. ちょっとだけ気後れしながら、登校した学校。 見上げる校舎に整然と並んだ窓には、春の空と雲が映っており、 それはさながら、いかにもな“青春の学びや”模様。 笑いながら。 欠伸をかましながら。 あるいは黙々と。 普段通りの制服達は、未来の自分をガラスの空に描いて、この校門をくぐり続ける。 ふと思った。 この中の何割が、なりたい自分になれるのだろう──と。 その何割かの中に、わたしは入れるのだろうか──と。 わたしは、大魔王を倒した勇者になれた。 イケメンの幼なじみに、プロポーズをされた。 そして黄色いワンピースにネコミミをつけた、キュートな女の子にもなれた。 全ては、小さな液晶の向こうにある、バーチャルな世界の話。 実際の自分は、何にもなれていないというのに… 級友の死を直に体験したばかりの2年A組は、なんとなくまだ、雰囲気がぎこちないように思えた。 ワラワラ動画で人気の歌い手が、新作の動画をアップしたとか、 ソーシャルゲームでいくら課金しても、レアなカードが出ないだとか。 あちこちから聞こえてくる会話は、今までとなんの変わりもないのに、 心なしかみんな、声のトーンが低いように感じる。 それはわたしの気のせいで、中でも人一倍デカかった声が、今はもう無いせいなのかもしれない。 常に大きな輪を作っていた紗耶の机の回りは、空洞が出来たようにガランとしていた。 決まってわたしを手招いたはずの花のような笑顔は、 本当に机の上に活けられた、白い花だけになってしまった。 押し寄せる感傷に沈み込まずにすんだのは、すぐにわたしを取り囲んだ、美奈達のおかげだろう。 祭儀場で何度も聞いた慰めのリプレイだけど、それでも人に接していると気持ちに張りが出る。 少なくとも、奇怪なわだかまりを忘れていられる分だけ、ここはありがたいと思った。 …のに。 「梅田さん…お昼休み、時間いいかな? 例の件で少し話しがあるんだけど…」 眉間に皺を寄せた奇怪な面持ちの佐倉くんが、わたしにそう告げ、一番前の席に戻っていった。 .
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