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そんな佐倉くんのせいなのか、それとも教室の真ん中にポッカリ空いた穴のせいなのか。
4日ぶりの学校は全然授業に集中出来ずに、
先生達の声が、右の耳から左の耳へと抜けていくばかりだった。
歯車どおりにメモリを刻む短針に、機械的に流されるようにして、
いつの間にかやってきたお昼休み。
わたしは美奈達とお弁当を食べ、半分以上喉を通らない段階で、早々にその輪を立ち去ることとなる。
佐倉くんとの待ち合わせ場所は図書室で、渡り廊下を隔てた旧校舎の2階にあった。
古い歴史を醸し出す木造階段が、ひっそりとした空気の中に軋み音を鳴らし、
踊場に射し込む日差しを、白い埃が帯状に象っている場所。
そんな昭和から時が止まったような空気が好きだったわたしは、
度々図書室を利用していたりする。
でも今日はそんな雰囲気が、逆に足を竦ませているのは、
やっぱりこの先で待っている“結果”から、逃げ出したい気持ちなんだろう。
図書室の中は、相変わらず静かだった。
棚一面にひしめく本の匂いに囲まれ、ポツポツと点在する生徒達。
休み時間の校内の雑踏から、取り残された人々の空間。
一番奥の窓際の席に、ちっこい男子は座っていた。
“昼休みデート”と冷やかされてもおかしくはないこのシチュエーションで、
佐倉くんは妙にシリアスな顔でわたしに手を振った。
黙って彼の、隣りに座る。
佐倉くんが時間を潰していたと思われる『宇宙怪獣防衛戦線』という本。
2人で無言のまま、しばらくその古い画風の表紙を見つめたのち、
不意に佐倉くんが、沈黙を破る。
「サポートセンターから回答が来たよ。
アバターの顔が歪む現象も、コメントの時刻表示がズレる現象も、他に不具合の報告は来てないって。
あと、アバターの顔を歪ませるアイテムも、販売してないって」
「……そう」
「でも、俺が指摘した【すぴん】の顔は見てくれたようで、早急に原因を究明し、対処します──だってさ」
「……そう」
なぜか、
“やっぱり”という感覚があった。
そして運営のエンジニアが、その原因を究明できることなんて永久にない──
そんな感じがした。
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