第4話・『蠢動』

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. わたしは初め、紗耶の自殺は青い髪の男によるものと信じて疑わなかった。 でも警察が言うには、彼女は肉体的暴力などいっさいふるわれていないという。 それならば何か精神的な暴力だろうとあの時は思ったけど…… よくよく冷静に考えて見れば、あの紗耶がそんなもので、自分の命を絶つまでに追い込まれるとも思えない。 「ねぇ梅田さん、幽霊とか怨念って信じる?」 「な、なに急に?」 「俺ね…一度だけ見たことあるんだ、幽霊。 窓の外からね、入院してるはずのお爺ちゃんが僕をじっと見ててね。 後から知ったんだけど、その時にはもう、お爺ちゃん病院で亡くなってたんだって… 俺に最後のお別れを言いたくて、出てきたのかな…って」 「…何が言いたいの佐倉くん?」 「うんと…だからね…… もしかしたら本当に、『どりんくば~』には星影レイミの怨念が住み着いてる可能性もあるかも…って思うんだ。 だからこれ以上は……」 幽霊が実在するか否か── 霊感とは縁のなかったわたしに、そんなことはわからない。 けれども、もし本当に幽霊や霊魂が実際に存在するんだとしたら… 「紗耶は……どうなるの?」 「…え?」 「自殺者の霊は、成仏出来ずにこの世をさ迷い続けてるって、なんかのテレビで霊能者が言ってた」 「……それは」 「自殺した紗耶の悲痛な想いは、いったい誰が聞いてあげるの? わたし……紗耶にいろんな悩みを打ち明けてた。 紗耶はちっぽけな相談でも、いちいち親身になって聞いてくれてた…」 …ダメだ…また涙がこみ上げてくる…… 「なのに……紗耶の悩みを、わたしは聞いてあげることもできないの? 親友が今、すごく苦しんでるかもしれないのに… わたしにそれを無視しろって言うのっ!?」 つい大きくなってしまった声は、静かな図書室に思いのほか響いてしまった。 一斉にこちらを向く図書室の面々から、慌てて涙を隠すように後ろを向く。 窓の外のグラウンドでは、活き活きとサッカー遊びに興じる男子達が見えていた。 視点を少し手前にズラせば、ガラスに映る佐倉くんの困り顔。 端から見れば、痴話喧嘩でカノジョを泣かせた、酷いカレシ…… ……には見えないほど、佐倉くん自身、今にも泣き出しそうな顔をしていた。 .
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