第1話

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「碇くん」 美聖さんの呼ぶ声で、ふと我に返った。 松島の遊覧船は、海猫を遠くに眺めながらゆるやかに進んでいく。 空は透けるように青く、落書きしたような雲がぽつんぽつんと浮かんでいる。 「どうしたの?船酔い?」 「いや、別に・・・」 俺は軽く頭を振って、目を瞬かせた。 ・・・いい天気だ。 平日の松島は、とても静かで。まるで時がとまったかのような非現実感があった。 「大丈夫です」 「なら、いいいけど」 近くの売店で、ホタテの浜焼きを買って食べた。 ぷりぷりの大きなホタテが三つ串にささったそれは、とても食べごたえがあった。 「あぢぢ」 「でも、おいひい」 美聖さんも無邪気にかぶりついていた。魚の脂で、お互い口のまわりがデロデロに汚れた。 瑞巌寺の参道も、とても静かだった。 厳かに連なる木々の向こうに、いくつもの暗い黒い穴が見える。 「なんすか、あれ・・・。ちょっと怖いっすね」 「あれは、古くからある納骨や供養の為の場所なのよ」 「本当?物知りっすね」 「だって、地元民ですから」 したり顔の彼女が、かわいくて仕方なかった。
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