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「碇くん」
美聖さんの呼ぶ声で、ふと我に返った。
松島の遊覧船は、海猫を遠くに眺めながらゆるやかに進んでいく。
空は透けるように青く、落書きしたような雲がぽつんぽつんと浮かんでいる。
「どうしたの?船酔い?」
「いや、別に・・・」
俺は軽く頭を振って、目を瞬かせた。
・・・いい天気だ。
平日の松島は、とても静かで。まるで時がとまったかのような非現実感があった。
「大丈夫です」
「なら、いいいけど」
近くの売店で、ホタテの浜焼きを買って食べた。
ぷりぷりの大きなホタテが三つ串にささったそれは、とても食べごたえがあった。
「あぢぢ」
「でも、おいひい」
美聖さんも無邪気にかぶりついていた。魚の脂で、お互い口のまわりがデロデロに汚れた。
瑞巌寺の参道も、とても静かだった。
厳かに連なる木々の向こうに、いくつもの暗い黒い穴が見える。
「なんすか、あれ・・・。ちょっと怖いっすね」
「あれは、古くからある納骨や供養の為の場所なのよ」
「本当?物知りっすね」
「だって、地元民ですから」
したり顔の彼女が、かわいくて仕方なかった。
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