第1話

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最後に、通信こけしで手紙を書いた。東北名産のこけしに手紙を入れて、荷札をつけて郵送する・・・というものらしい。 旅の記念に、互いの住所宛に送ることにした。 「これ、本当に郵送されるんですか?」 「大丈夫よ」 帰ったあと、お互いの手紙を読もうと約束した。 美聖さんは、新幹線のホームまで見送ってくれた。 はやく帰って、彼女の手紙を読みたかった。 ふと目覚めたとき、俺は新幹線の中でこけしを握りしめていた。 三月十一日を境に、このこけしは形見になってしまった。 家族でもなく、付き合いも浅かった俺は、葬儀にすらでれず。しばらくしてから彼女の安否を知った。 『今日は会えて、本当に嬉しかったよ。松島でまた、会えますように。みさと』 俺は、こけしをぎゅううっと握り締めた。 「碇って、いい名前ね」 「そうですか?」 「碇は、船をきちんと一定の場所にとどめる役目をするもの。確かな重みで海底に沈み込んで、ちゃんと捕まえててくれるのよ」 「はあ」 あのとき何となくきき流していたセリフが、今、妙に思い出される。 こけしに重りの石を括りつけ、そっと松島の海に沈めた。 「ちゃんと沈めよ」 「そして、ちゃんと捕まえててくれ」 俺は、海に向かってペコリと一礼した。 また、会いにきます。 心の中でそうつぶやいた。ー完ー
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