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K県警視庁、捜査一課所属”秋島 雄二<アキシマユウジ>”警部は憤慨していた。
「納得できません!」
「納得するしないの問題ではない。命令なのだ。秋島警部」
警視総監に怯みもせず、声を荒らげた秋島は、机に両手を叩きつけ怒りに顔を歪めた。
睨みつけられた当の本人は目を伏せ、感情を面に出さず淡々とした対応をする。
上司の状況にそぐわない態度が、秋島の苛立ちを募らせた。
体を小刻みに震わせ、机に置いていた両手を強く握りしめた秋島は、これ以上何を言っても無駄だ、と悟り警視総監”古橋<フルハシ>”に背を向けた。
去っていく背中を見送り、荒々しく扉が開かれ秋島が姿を消すと、古橋は背もたれに体を預け天を仰いだ。
染み一つない真っ白な天井とは裏腹に、古橋の心は酷く濁って黒ずんでいる。
「もう遅いのだよ。秋島警部。何もかも」
ぽつり、と水滴のごとく紡ぎだされた単語は、諦めの境地に達したような古橋の心情を如実に表していた。
「もう、誰にも止められないんだ」
古橋はそう呟いたあと、視線を机の引き出しへ移した。
銀色の取っ手を掴み手前に引くと、分厚いファイルが一冊顔を覗かせる。
濃い青色の表紙をめくれば、綺麗に端の揃った資料がつづられていて、古橋はもう見飽きたそれに目を通した。
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