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時は1548年永禄17年の春を迎えていた数多の小大名が群雄割拠し血を血で洗う凄惨な争はいが日々繰り返され世は無情の乱世と化していた――
ここは美濃国稲葉山の麓千畳敷にある国主斎藤山城守利政の館である
壮麗な居館はもとよりその庭も東山風を取り入れた趣のある佇まいを見せていた
「帰蝶さまそろそろお居間に戻らねば…」
と若い侍は野菊を摘む傍らの少女に声を掛けた
「もう少し…」
帰蝶さまと呼ばれた少女はそう言うと若い侍に笑みを見せた肌はぬけるように白く黒目がちの大きな瞳に形の良い唇は朱を差したように紅く豊かな黒髪は薄紅の結い紐で一つに纏められていた
「妙どのが探しておりましょうほどに」
「ふっふふ妙なれば母上さまの御用で山下に出向いておりまする故」
帰蝶はそう言うと白い小さな指先を野菊へと伸ばし鋏を入れた
「さ、されどこのように二人でいては…」
「従兄弟ではございませぬかふっふふ可笑しな十兵衛さま」
帰蝶はそう言うと片膝を着きながら籠を捧げる十兵衛を見つめた
「それとも私の傅は疲れましたか?」
「そ、そのようなことはございませんただ…」
「ただ?」
帰蝶は言葉を繰り返すと十兵衛の捧げる籠に野菊を差し入れた
「あまり無邪気にお笑いめさるな…」
十兵衛はそう言うと思案めいた帰蝶の視線より逃れた
―この胸の思いは誰にも悟られてはならぬ…わしが従兄弟ではなく一人のおなごとしてこの方を好いているなど愛おしいと思うているなど…―
そんな二人の様子を遠目に眺めるこの居館の主である斎藤山城守利政は微笑み返す傍らの正室小見の方を見て苦笑いを浮かべた
「ほほほほ何と仲睦まじい事か姫と十兵衛、似合いの夫婦になると思われませぬか?」
「さりとて十兵衛は従兄弟ともうせ家来に過ぎぬ…家来に遣わすには帰蝶は惜しい」
「殿は姫を他国に嫁がせるおつもりにございますか?」
小見の方は低い声音でそう言うと美しい顔を曇らせた
「そのように怖い顔をするでないようやっと帰蝶は娘となったばかり輿入れなどまだ先のことじゃ」
利政はそう言うと再び目を細めて帰蝶と十兵衛に視線をやった
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