【第17話】殺意の匂い

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人にとって匂いとは、 光や音に比べて、 とても鈍重な感覚である。 だから、 その発生源や種類が分かったとしても、 即座に何かを判断できる材料にはなり得ない。 しかし、 倫子の場合は違っていた。 倫子にとって匂いは、 何ものにもまして多くを語る、 確かな情報手段だった。 「どうした?」 突然、 表情を強張らせて俯いた倫子の顔を、 宇崎は不安げに覗き込んだ。 この場で頼りになるのは、 倫子だけである。 その彼女が眉間に皺を寄せ、 突然黙り込んでしまったので、 宇崎は急に心細くなってしまった。 「いいかげん、出て行きたまえ!」 村瀬はドアを指さして怒鳴った。 「どうする、宇崎さん?」 倫子の様子を見て、 遠藤も半分腰を浮かせていた。 「大丈夫。 ちょっと目眩がしただけ」 父と息子が、 同じ日に、 同じ女と、 肌を合わせている・・・。 おぞましくも醜い関係に、 倫子は、 目眩と吐き気がしていた。 「それより・・・」 眉間に皺を寄せたまま、 倫子は、 宇崎と遠藤に目配せをした。 しかし宇崎は、 倫子に何を指示されたのかわからず、 どぎまぎしている。 倫子はもう一度、 宇崎と遠藤の視線を誘い、 その目をドアに誘導した。
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