第拾話「奪われて」

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我もかつては、其の愛とやらに溺れていたのではないか。 我もかつては、或る女に愛されていたのではないのか。 我を愛した女ー 妃であったエリザベータ。 そのエリザベータからの愛を、我は自らの手で奪ってしまった。 あの日── 我が愛を失った呪わしき日。 妃であるエリザベータは美しい女であった。 無条件に我を愛し、尽くしてくれた女。 そんな愛しいエリザベータを疑う噂を、近習の者が我に密告したのだ。 『ヴラド様の弟君、美男公・ラドウ様とエリザベータ様が密会し、愛し合っております』 しかも、 『ラドウ様とエリザベータ様が共闘して、君主であるヴラド様の追い落としを画策しております』 耳を疑った。 其の噂を確認すべく、我は妃エリザベータに詰め寄った。 『我以外の男を愛しているのではないか? 虚言は赦さぬ。申してみよ』 『貴方だけを愛しております』 『弟ラウドを愛しているのではないか? 我を落としめようとしているのではないか?』 『なぜそのようなことを』 『愛なぞ、まやかし。愛が永遠なぞ世迷い事も甚だしいわ』 『わたくしの、エリザベータの愛が偽りであると疑いか?』
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