第捌話「土方歳三 対 沖田総司」

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今度は後ろに飛び退くのではなく、総司に体当たりをして次手を封じた。 「ははっ、なかなかやりますね、副長」 歳三を跳ね除け、総司が笑った。 捻られ体勢を崩したままだと、次手で柄もしくは鍔の部分で後頭部を打たれていただろう。 「『鍔捌(つばさばき)』の術かい!?」 「そうです、土方さんの抜き打ちは怖いですからね」 『鍔捌(つばさばき)』とは、天然理心流に伝わる相手の抜き打ちに対処する柔の術だ。 抜き打ちにくる相手を、打突で出ばなをくじき、すぐさま極める術である。 総司は刀を抜き、『平青眼(ひらせいがん)の構え』を取る。 天然理心流の『平青眼の構え』では、刀身を少し傾斜させることで、初太刀の突きが躱されても、そのまま相手の頸動脈を斬りにいける構えだ。 また、相手の構えによって切っ先も変わり、相手が中段の場合切っ先は脇の下へ、下段の場合手首に狙いをつけるようにしている。 事程左様に、形にとらわれず、臨機応変に技を使い分ける。 これこそ、幕末の真剣勝負で無類の強さを誇った実戦の剣ー 天然理心流である。
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