第捌話「土方歳三 対 沖田総司」

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『平青眼の構え』を取る総司を見て、歳三は薄く笑った。 「へへっ、相変わらず近藤さんと構えが似てやがる」 総司の『平青眼の構え』はやや前傾で、肉食獣が飛び掛かるが如く迫力と躍動感がある。 歳三も虎徹を抜いて『平青眼の構え』を取る。 こちらは身の内で湧き上がるエネルギーでリズムを取るように、その構えが細かく揺れている。 それを見て総司が、 「土方さんも相変わらず気合に満ちているなあ。近藤先生の口癖でー」 「『剣術は一に気組、二にも気組』だな」 『気組(きぐみ)』とは真剣勝負において、相手を凌ぐ力と、何事にも動じぬ胆力が不可欠とし、これを合わせたものを『気組(きぐみ)』と呼ぶ。 「土方さん、一つ訊いていいですか?」 「なんだ、総司」 「僕は近藤さんが斬首されたことを知らされなかった」 「……」 「何故近藤さんが捕まった時に、土方さんも一緒に投降しなかったんですか?」 総司が珍しく神妙な顔で訊ねた。その顔は哀しみの色が少しにじんでいた。
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