第玖話「決別」

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ロールス・ロイス社製の最高級車ファントム。 そのファントムの中でも世界に40台しかないアール・デコ・コレクションだ。 四角く荘厳なボディは黒真珠のような光沢で煌めき、V型12気筒6.75のエンジン音は猟犬の低い唸り声のように視る者を威圧する。 観音開きの後部ドアが開き、ブラックとホワイトのコントラストを強調したシートから、黒ビロードのタキシードを着た信長が降り立つ。 後ろのファントムから、典太を帯刀した十兵衛と、大剣を背負ったヴラドが共に降り立ち、信長の前にひれ伏した。 「約束の日ぞ。 土方歳三、貴様の回答を聞きに来た!」 信長が鷹のように鋭い眼光を、虎徹をぶら下げる歳三に向けて言い放った。 「……その前に訊いていいかい?」 「申せ」 「この前、信長公は日の本を踏み台にして、と言ったが」 「言った」 「どういう意味だい?」 「是非も無し。 この時代の日の本に、現代の日本に世界と闘う気概も覇気も無い。 戦に負けて、其の魂まで消失したのだ。そんな日本に如何程の価値があろうか。 維新政府とやらが開いた民主主義という思想は、格差を生む偏ったシステムよ。
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