第弐話「歳三 故郷へ」

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「土方歳三が出た!」 コトノの電話に、アサコは「はいはい」と答えた。 「いや、本当に出たんだって!」 電話の声はかなり動転しているようだ。 「そりゃあそうよ、土方歳三のプログラムだもの」 「違う違う、幻覚じゃなくて、本物が出たのよ!」 ああ、コトノかなりキテるな、とアサコは思った。 憧れの土方歳三を見て、舞い上がってしまったのだろう。 それはそれで、プログラマー冥利に尽きると思った。 「とにかく、アサコ来てよ!」 「はいはい、仕事捌けたら行くわ」 「きっとよ!」 そこで電話は切れた。 しゃーねえなぁ、と昨日の今日だがアサコはコトノに会うことにした。 日が暮れ、帰宅ラッシュで混む駅前で、アサコの車はコトノを拾った。 「『お楽しみ』過ぎて、コトノおかしくなったの?」 「幻覚じゃないんだよ! それを確かめたくてアサコに見てもらいたいの!」 コトノの眼は真剣だった。 我ながらココまで真に迫るプログラムとは、こりゃ~神の領域に入ったな、とアサコは満悦する。自分のある決心にアサコは自信を持った。 「それで、その幻覚じゃない土方歳三はー」 「部屋でテレビ観てる」 「……一人で?」 「うん」 まぁいいや、そのボケを肴に酒でも飲もう、とアサコはすでに酒とおかずを用意してきたのだ。
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