第拾話「奪われて」

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土方歳三たちの襲撃を終え、ヴラドは隠れ家の自室に篭っていた。 部屋の白い壁をじっと見つめながら、ヴラドは深い思考の海を泳いでいた。 ヴラドは考え、想い出していた。 先刻の襲撃での出来事を。 カグヤという少女を殺害しようとした時、土方歳三のマスターである女が少女を庇った。 たしかコトノハという女だ。 そのコトノハを我は捕虜にした。 そのことで雇い主である織田信長から咎があると思ったが、意外にも信長はそれを赦した。 奇妙な男である。 信長という男と我の関係は、あくまでも雇い主と雇われる者。そういう関係だ。 主従の関係に非ず。 信長も君主。我も、かつて君主だった。 だからか、我には信長という男の孤独が判る。 そして、信長も我の孤独を容認してくれた。 であるなら、であるからこそ、我は信長に雇われる身と成った。 あの男の末路が見たいから。 コトノハという女。 我の大剣から少女を庇って、其の身を投げ出した女。 理解できぬ。 自らの命を投げ出し他人を護ることに、どれほどの意味があろうか。 それを愛と、人は呼ぶのか。 わからぬ。
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