第拾話「奪われて」

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『我に問い掛けるか? やはり不義密通はエリザベータ、お前の魂胆がみえたわ』 『愛を否定するは、わたし自身を否定するも一緒』 そう言ったエリザベータは、ポエナリ城の崖からアルジェシュ川に身を投げた。 崖から飛び降りる前に、エリザベータが言った一言が忘れらねぬ。 『愛というものは与えられるものではなく、身を焦がし己が命を捧げ与えるものよ。それを忘れないで──』 結局、エリザベータは無実だと後から判った。 すべては弟である美男公・ラドウと近習の者の画策であった。 オスマン帝国と手を組んだラドウは、我をワラキア君主の座から追放した。 そして12年間もヴィシェグラード砦に幽閉したのだ。 あの時のエリザベータの哀しい顔── 先刻の襲撃で見た琴という女の顔に似ていた。 どこかエリザベータに似た美しい女。 琴もマスターである少女を愛していたのか? 想えば我等『戦国魔人衆』は皆、マスターとスレーブである主従関係に愛は無い。 我のマスターは、エリザベート・バートリーという快楽殺人者の娘だ。 柳生十兵衛のマスターは国家諜報員の女だという。そこに愛は無い。
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