第拾話「奪われて」

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宮本武蔵は見ていた。 織田信長に奪われてきた横たわるコトノを。 その傍らに眠る娘。 名をお通と謂う。 まだ4,5歳の幼女であるお通が、武蔵は不憫に想っていた。 聞けばお通は、自分宮本武蔵を喚び出すためにSDマシーンに掛けられ、其れがために喜怒哀楽を奪われ正気を失った。 このような幼気のないお通を、このような境遇に貶めた者が憎かった。 其の者はお館様、織田信長殿のマスターだと謂う。 ふと、寝ているお通が「母さん」と寝言を言った。 お通は孤児院で育ったが、宮本武蔵の子孫であるという理由で、実験のために此処に連れて来られた。 お通は武蔵と、武蔵が愛したお通の子孫である。 親の愛を知らないお通。 此処にはお通が安堵できる愛が無かった。 幼心にコトノハという歳三のマスターである女に、其れがあると見抜き、連れて来られた時から片時も側を離れない。 武蔵は此の幼女、お通を愛おしく想っていた。 武蔵は想う。 兵法者である自分は、幼少の頃から自分の渇望に飢えていた。 同じ宮本村の娘、お通に心を通わせながらも、立身出世のため剣術を磨いた。
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