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やがて一端の兵法者と呼ばれるようになったが、まだ渇望の火は消えなかった。
天下に其の名を轟かせ、剣術を究めたかに想えたが、渇望の火はまだ胸に燻っていた。
その燻りが消えるように、武蔵は画と書も嗜んだ。
それらは成程、隙のない静謐を感じさせるものだったが、何故か武蔵は納得出来なかった。
何かが足りない。
何かとはなにか?
判らなかった。
自分に足りないもの。
其れが此の時代、現代に来てお通と一緒になることで判った気がした。
自分に足りなかったものは、慈しむ心──
其れを人は愛と呼ぶのか。
喜怒哀楽を、正気を失ったお通は、何故か無骨な武蔵の側を離れなかった。
そのお通を武蔵は愛おしく想った。
大事に想った。
そう想い、武蔵は判った。
自分に欠けていた、足りないものが。
所詮、剣術も画も書も命を創り出すことは叶わぬ。
生命を生み出すことは出来ぬ。
そして、人の感情も創ることは出来ないのだ。
其れが武蔵には、お通と共に居て判った。
其のお通を護らねばならぬ。
闘いで死ねぬ。
もとより戦に於いて、生死は紙一重である。
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