第拾話「奪われて」

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お通が寝返りを打った。 それらを見ながら、宮本武蔵はあの男のことを考えていた。 土方歳三── マスターであるコトノハのために、きっと歳三はやって来るだろう。 生死を掛けて、歳三と自分は闘わねばならぬ。 其れがあの男と自分の運命である。 「う……ん……」 コトノが覚醒めたようだった。 壁に寄り掛かり、自分を視る武蔵に気が付き、コトノははっとした。 「すまぬ、今少し其のままでいてくれぬか」 武蔵が優しい声でコトノに願った。 コトノは傍らに眠るお通に気が付き、また武蔵を見た。 あの野生の虎のような宮本武蔵が、このような優しい顔をするのだろうか。 コトノは奇異に想い、そして寝ているお通を見た。 そうか、この娘が大事なのね。 コトノは武蔵の言う通り、しばらくはそのままの姿勢でいることにした。 「ここはどこですか?」 「信長公の隠れ家よ」 「わたしは人質なのですね?」 「……。」 武蔵は答えなかった。 「この娘の名はたしか……」 「お通と謂う」 「お通ちゃん」 「コトノハ殿、お主には話しておこうか」 「なんですか?」
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