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「お通は此の武蔵を喚び出すために、幼い身にも拘わらず実験材料にされた」
「!?」
「其れがために喜怒哀楽を奪われ、正気を失った不憫な身の上なのだ」
「ひどい……」
「だからお願いだ。此の武蔵が斃れた時は、すまぬがお通の面倒を──」
そこまで言って、武蔵は言い澱んだ。
人質である娘に請いている自分が可怪しくなったのだろうか。
「明日、また土方と闘うつもりなのですね?」
「無論。あの男とわたしは雌雄を決する武人の運命なのだ」
コトノはこの男に『止めて』とは言えなかった。
「心配しないで下さい。お通ちゃんはこのわたしが……」
コトノもまた言い澱んだ。
それは歳三か武蔵が斃れる時だからだ。
武蔵が頭を垂れて「申し訳ない。お願いする」と詫びた。
「必ず」コトノも約束した。
その時──
部屋の扉が開き、柳生十兵衛が顔を出した。
「武蔵殿、それにコトノハ、お館様がお呼びだ」
それだけを告げ、十兵衛は黙念と扉の側で待っている。
「では約定、くれぐれをお願いする」
そう言い、武蔵は寝ているお通の頭を軽く撫でた。
コトノは武蔵に頷き、お通を起こさぬように立ち上がる。
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