第拾話「奪われて」

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「なんと」武蔵が嘆息する。 そうこうするうちに、信長が居る部屋である扉の前に着いた。 「では、御免」 そう言って柳生十兵衛は、コトノを連れている武蔵に別れを告げた。 去る動作を俊敏で、まさしく猛獣である黒豹のような男である。 武蔵が扉の前で信長に挨拶をする。 「お館様、宮本武蔵参上つかまつり候」 「入れ」 扉の奥から、良く透る信長の声がした。 武蔵が扉を開き、コトノを部屋に通した。 うず高く積まれた本が乱立する机の向こうに、威圧を放つ織田信長が端座して居た。 「女、目が覚めたようだな」 信長がコトノに声を掛ける。武蔵はその様を静かに眺めている。 「女、貴様が土方歳三のマスターであるか?」 信長が問い掛けた。 「女では無く名前があります。豊島 琴乃葉(としま ことのは)という名が」 コトノが信長の眼を見据えて名乗った。 「ほう、あの男のマスターだけはある。なかなかの胆力よ」 感心する信長。
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