第拾話「奪われて」

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うず高く積まれた本を良く見ると、 『聖書』から、 トインビーの『歴史の研究』にアインシュタインの『相対性理論』、 ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』にヘロドトスの『歴史』、 はては大脳生理学やら心理学、文学ならシェークスピアからゲーテまで、ありとあらゆる書物が山となってそびえていた。 信長が居た時代に宣教師として日本に滞在したルイス・フロイスが、『信長ほど書物を読んでいる人物は日本でも稀である』と書き残しているが本当らしい。 とかく織田信長というと冷酷無比な独裁者、無遠慮な傾奇者というイメージがある。 しかし実像は、知性に満ちた教養人の趣さえある知識人といっても過言ではないようだ。 「女、琴乃葉といったか。 マスターであるお前も、この国に、いや此の時代の人間に、土方が言ったような価値があると思うか?」 信長が威厳に満ちた眼差しで、ちゃんと名を言い訊ねた。 「価値はわかりませんが、わたしは土方を信じています」 「であるか」 信長がしばし考え、 「人間は弱いものよ。明日わしが日本を支配して、此の国が敵になったとしても土方は貴様を裏切らないと申すか?」
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