第拾話「奪われて」

14/16
前へ
/216ページ
次へ
「いずれにせよ、明日が楽しみよのう」 コトノと武蔵を無視するように、信長は豪胆に嗤い続けた。 その明晰な眼は未来を、明日という決戦の日を見据えているようだった。 その頃、コトノを奪われた大御所邸にアサコが帰って来たが、その惨状を見て唖然としている。 「まさか、もう信長と戦闘をしたんですか?」 「アサコ、すまねえ。コトノハが奪われた」 無念そうにアサコに詫びる歳三。 「でも生きていますよね?」 アサコの問い掛けに、無言で頷く歳三。 「なら大丈夫。コトノはああ見えて、わたしより心の強い娘ですから」 「……そうだな」 「きっと歳三さんの救けを待っていますよ」 微笑むアサコに歳三が、狼の遠吠えのように勇ましく宣言する。 「ああ、約束したんだ。侍(さむらい)の誇りにかけて、コトノハを絶対死なせねえ!」 虎徹を掲げて、歳三が雄々しく猛る。 「それよりアサコ、お前何処に行ってたんだ?」 「ふふ、やはり歳三さんが闘う時はコレじゃなきゃね」 そう言って、アサコが荷物を見せた。 それはコトノの部屋に置いてきた函館の軍服だった。 「おお、すまねえアサコ」喜ぶ歳三。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加