第弐話「歳三 故郷へ」

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しかし、SDマシーンが稼働していないということは、この土方歳三はSDマシーンが創り出したバーチャルリアリティでは無いということだ。 コトノは、アサコのトガッたファッションを見た歳三が驚くと期待したが、「花魁や天神の方が派手」と平然としているので肩透かしを食らった。 ちなみに花魁や天神は、遊郭と呼ばれる現在でいう高級風俗店(もっと高尚であるが)の遊女の格付けである。 とりあえず部屋に入り、皆で食事と酒にありつきながら話をしているところだ。 「でも、俺は幻覚じゃないぜ」 「そのようですね」 「こりゃー奇妙奇天烈だな」 歳三が感心しながら、アサコの土産の沢庵を齧る。 「しっかし、やっぱり沢庵はうめえな!京の漬物より関東だな。 どうも京は排他的でいけねえや。女と酒はイケるがね」 「ふっふふーん、『日野名産東光寺たくあん』で御座います」 アサコが鼻を鳴らす。酒の肴に買ってきた物だ。 「日野かっ!」 「歳三さんの故郷の味でしょう? 東光寺大根を糠と塩だけで漬けたものよ」 「懐かしいぜ! 函館では粗食で『武士は喰わねど高楊枝』と我慢したけどよ」 「函館?」 アサコが訝しむ。 どうやら歳三は、榎本武揚率いる蝦夷共和国の時代、土方歳三最後の戦いの地を言っているようだ。 「ああ、函館で戦になるってんで、兵士の素行は悪くなるわ、榎本武揚さんは『榎本ブヨ』と蔑まれるわ。 で、せめて俺は武士の体面を守らないといけねぇと『高楊枝』さね」 歳三が愚痴る。
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