第弐話「歳三 故郷へ」

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「でも、この歳も渋いよ」 「それに、あたしのプログラムでは黒い着物なのに、この歳三さんは洋装の軍服だし」 「でも、この歳もカッコ良いよ」 憧れを前にして目が眩んだ乙女の戯言は放っといて、とアサコは思案した。 「考える仮説として、コトノの願望がSDマシーンで増幅され”トゥルパ”が発現したー」 「”トゥルパ”?」コトノが聞いた。 「チベット仏教で、人間の精神で創った『思念投影形態』を”トゥルパ”というそうよ」 「『思念投影形態』!?」歳三が尋ねた。 「人間の思念が実体化した存在、だと超心理学では説明されているわ」 「凄い、アサコは本当に何でも知ってるね!」 「まぁ、これでも日本超常現象研究協会なるものに入っているからね」 それでも亡くなる前の記憶がある説明にならない。とアサコは心のなかで唱えた。 〈或いは〉と、もう一つの仮設をアサコは考察したが、材料不足の為その仮説を保留にした。 「ところで、今の時代は何年なんだ? 明治は終わっているのか?」 「今は歳三さんが函館に居た時代から150年は経っています」 「150年!?……今浦島だな。 此処は『アタシノヘヤ』という場所かい?」 「いいえ、歳三さんの故郷の日野から車で30分くらいの場所です」 「馬車で一刻か」 「まぁ、馬車よりは馬力がありますが」
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