第弐話「歳三 故郷へ」

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翌日、日野に行く途中で紳士服専門店に寄った。 その顛末が、 「スーツが着てぇ」 テレビで覚えたのか、歳三の要望があったからである。 「土方歳三って名前はちょっとマズいわね、すぐバレちゃうから偽名を使おうか?」 店に入る前にアサコが言った提案に歳三は、 「それなら、俺は内藤 隼人(ないとう はやと)で決まりだ!」 「なるほど」 アサコは合点した。 内藤 隼人(ないとう はやと)は最後の将軍 徳川慶喜から寄合席格と共に贈られた名前だと謂われている。 寄合席格とは上級旗本の家格で、旗本は将軍の直属家臣である大名・旗本・御家人の一つで、俗に『殿様』と称される身分である。 それに隼人の名は、歳三が生まれる前に亡くなった父、土方隼人義諄(はやとよしあつ)と同じであった。 「では隼人さん、スーツをご所望でしたらコチラでよろしいですか?」 コトノが助手席から声を掛けた。 「うむ、良きに計らえ」 後部座席で歳三が快諾した。 こういう遣り取りを経て、途中で紳士服専門店に寄ることになったのだ。
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