第弐話「歳三 故郷へ」

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紳士服専門店の店内に入った三人。 歳三は迷わず、店の奥にズケズケと歩いて行く。 店の奥から女子店員が、奥に行く歳三を見て寄って来た。 「スーツをお探しですか?」 20代後半と覚しき、ちょっと化粧が派手な女子店員だ。 茶色に染められた髪はネオソバージュで、もう若くない自分を飾り立てている。 「ああ、そうです。失礼ですが、一番良い生地のスーツは何処ですか?」 先程迄の態度とは大違いで、歳三は丁寧な物腰で女子店員に聞いた。 呆気に取られるアサコとコトノを他所に、歳三は女子店員の案内で店の奥に行く。 女子店員は眉目秀麗な歳三を気に入ってか、しきりに髪を触って笑顔を作っている。 それを知ってか知らずでか、歳三は女子店員の案内に従っている。 「こちらなどいかがでしょうか?」 「ああ、いい生地だ」 歳三は女子店員の背中越しに、スーツの生地の感触を確かめる。その距離が、女子店員のうなじに息が掛かる程近い。 それに生地をまさぐる指が、女体を愛撫するように繊細で淫らな動きだった。 その指の動きに顔を赤らめ、女子店員が硬直している。 「こ、こちらはイタリア製になりますが」 女子店員が別のスーツを勧めた時に、歳三の掌と触れ合ってしまった。 「これは、失礼しました」 慌てて歳三が手を引く。本当に申し訳無さそうだ。 女子店員が(もっと触って欲しい)と訴える眼で歳三を見た。 「こちらの方が良いですね。 私も昔、服飾関係の仕事をしていましたが、ああ、これは良い生地だ」
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