119人が本棚に入れています
本棚に追加
日野に着いた一行は、車を有料駐車場に停めた。
近くにモノレールが走る街で、幹線道路から外れると静かな住宅街だ。
しばらく歩くと、白い壁に囲まれた大きな個人宅が見えた。
『土方歳三資料館』である。
樹が茂る大きな庭には、土方歳三の胸像が見える。
だが、『閉館日』の看板が掲げられている。『土方歳三資料館』は残念ながら閉館日で閉まっているようだ。
それでも満足したのか、歳三は門の前で「すまねぇ」と連呼し「ありがとう」と深々と頭を下げた。
この男のこういうところが愛されているのか、地元では「歳三さん」「歳さん」と呼ばれ親しまれている。
頭を下げる歳三に微笑みながら、コトノはアサコをチラリと見た。
アサコは澄ましているが、きっと閉館日だと知ってて来たのだろうと思った。
何せ、展示してある資料の本人が入って行ったら、きっとパニックになること必至であるから。
「車、こっちだよ」
注意するコトノを無視するように、歳三はテクテクと住宅街を歩いて行く。
「散歩かね?」
訝しむアサコとコトノは、先を行く歳三について行く。
周りは大きな家が多く、土地柄か『土方』姓の大きな屋敷も点在していた。
すぐに河川敷の小さい道路に出た。
流れる河は浅川である。
白い鷺が一羽、川面で戯れている。
歳三は河を横目に、橋の方に歩いて行く。うららかな日和のなか、風をさがすような足取りで行く。
浅川に掛かる新井橋は車が往来し、上の架橋には四両のモノレールが静かに走っている。
その橋のたもとに向かって、歳三は河堤を降りていった。
最初のコメントを投稿しよう!