第弐話「歳三 故郷へ」

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日野に着いた一行は、車を有料駐車場に停めた。 近くにモノレールが走る街で、幹線道路から外れると静かな住宅街だ。 しばらく歩くと、白い壁に囲まれた大きな個人宅が見えた。 『土方歳三資料館』である。 樹が茂る大きな庭には、土方歳三の胸像が見える。 だが、『閉館日』の看板が掲げられている。『土方歳三資料館』は残念ながら閉館日で閉まっているようだ。 それでも満足したのか、歳三は門の前で「すまねぇ」と連呼し「ありがとう」と深々と頭を下げた。 この男のこういうところが愛されているのか、地元では「歳三さん」「歳さん」と呼ばれ親しまれている。 頭を下げる歳三に微笑みながら、コトノはアサコをチラリと見た。 アサコは澄ましているが、きっと閉館日だと知ってて来たのだろうと思った。 何せ、展示してある資料の本人が入って行ったら、きっとパニックになること必至であるから。 「車、こっちだよ」 注意するコトノを無視するように、歳三はテクテクと住宅街を歩いて行く。 「散歩かね?」 訝しむアサコとコトノは、先を行く歳三について行く。 周りは大きな家が多く、土地柄か『土方』姓の大きな屋敷も点在していた。 すぐに河川敷の小さい道路に出た。 流れる河は浅川である。 白い鷺が一羽、川面で戯れている。 歳三は河を横目に、橋の方に歩いて行く。うららかな日和のなか、風をさがすような足取りで行く。 浅川に掛かる新井橋は車が往来し、上の架橋には四両のモノレールが静かに走っている。 その橋のたもとに向かって、歳三は河堤を降りていった。
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