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その笑い声を、歳三は想い出していた。
〈近藤さん見ろい、あの武蔵が驚いてるぜ!〉
歳三は、心の中の近藤に自慢した。
「すまねえ、他流の真似事をしちまった。今度は天然理心流を魅せるぜ!」
武蔵に宣言して、歳三が再び構えた。
構えは大上段。
武蔵は再び、二刀の『無構(むがまえ)』
歳三は、どくどくと熱い血潮が、己が五体に流れるのを感じた。
獣の性が蘇るのを感じる。
嗚呼、俺はこういう闘いを欲していたのか。
「豪っ!」
歳三が餓狼の咆哮を放った。
「応っ!」
武蔵が虎の雄叫びで応えた。
歳三より巨躯な武蔵の躰が、弾ける剣気で更に膨れ上がった。
刹那──
武蔵の左の腕から小太刀が、唸りを上げて歳三に向けて飛んだ。
〈ぞんっ!〉
歳三は飛来する小太刀を、大上段からの拝み打ちで落としたが──
そこに武蔵の左半身で後方へ水平に構えられた大太刀が、袈裟斬りとなって歳三を襲う。
二天一流の『虎振(とらぶり)』である。
読んで字の如く、後ろに構えた剣が虎の尾の如く、伏せて敵に襲いかかる様から名付けられた。
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