第参話「土方歳三 対 宮本武蔵」

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武蔵の『虎振』の左袈裟斬りを、歳三は拝み打ちの勢いのまま、剣を地面すれすれまで打ち込み、その躰は屈み込んだ。 屈み込んだ歳三の頭上を武蔵の剣が襲うが、歳三の頭を凪いで髪を何本か斬って去った。 屈んだ歳三は禽獣の如き瞬発力で、下段から武蔵の喉元に諸手突きを放った── 「ぬぅ!」 武蔵が僅かに首を振り、歳三必殺の突きを躱した。 躱す動作をしながら、武蔵は先程歳三が見せた巌流『虎切』を真似て、返しの振りで歳三を両断しようとしたがー 突きを躱された歳三の勢いは止まらず、そのまま武蔵に向かって頭突きを見舞った! 〈ごちっ!〉 肉と骨を打つ鈍い音がした。 歳三の頭突きに、武蔵は己が額を差し出し、その餓狼の牙を受け止めたのだ。 恐るべきは歳三か── 〈他流ではなく天然理心流を魅せる〉と豪語して、その実、巌流の『一心一刀』と謂う、これも『燕返し』だと推測される刀法を繰り出した。 そこからまた、天然理心流の『虎逢剣(とらあいけん)』の突き技に繋ぎ、躱されるやいなや、喧嘩殺法の頭突きを見舞ったのである。 虚と実 ー 剣法と喧嘩殺法。 渾然一体にして剣人合一か。 武蔵は首筋から、そして額から一筋の血を流し、眼前の歳三を睨んだ。 「天然理心流は、柔術を併せた総合剣法だぜ」
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