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「ぐむぅ」
虎のように唸り声を上げる武蔵だが──
「へっ、おっさん、笑っているぜ」
武蔵の口に、喜悦の笑みが浮かんでいた。
「そういうお主こそ」
武蔵が指摘した通り、歳三の口元にも紛うことなき笑みが刻まれていた。
「へへっ、楽しいからな」
歳三は魂から湧いて来る震えに躰を任せ、獣の性を解き放つ闘いに愉悦していた。
二人の剣鬼の闘いを見守るコトノは、不思議な感動と、そして喪失感を味わっていた。
ああ、この漢は、やはり闘いを欲している。
女のわたしでは、この人を縛ることが出来ない。
ならば、わたしはどうすれば!?
歓喜に身を震わせる歳三を見ながら、コトノは今までと違う情念が湧いて来るのを感じた。
武蔵は硬質な剣気を解いて、歳三に敵意が無いことを示し、その身を引いた。
「お主の検分は終わった……」
「検分!? 試されたのかい?」
「うむ」
「それで、試験は合格かい?」
武蔵は無言で剣を鞘に収めた。
「いずれ、我が主(あるじ)より沙汰(命令・指示)があるだろう」
身を翻し、武蔵は河堤を登って行く。
途中で、幼い女の子に声を掛けた。
「お通、去ぬぞ」
幼女が武蔵に従い、連れ立って歩いた。
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