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その背に向かって、歳三は叫んだ。
「礼を言うぜ、おっさん!」
武蔵は振り返らず、朴訥な言葉を返した。
「ふふっ、血が滾るようなら、また相手になろう」
そして、飄然と武蔵は去った。
それを見届けたのか、橋の黒いライダースーツの男は、端に停まっていた赤いライダースーツの女が乗る大型のバイクに跨がり、立川方面へ走り去った。
「何者だい?」
アサコが呟いたが、コトノは佇む歳三に駆け寄った。
「歳、血が出てるよ」
「んっ、ああ、大丈夫、向かい傷さね」
歳三は額に流れる血を無視した。
「大丈夫じゃないよ」
そう言って、コトノはハンカチで血を拭った。
大人しく歳三はそれに従う。
「野郎、ナマクラ刀をよこしやがって」
歳三が刀を見て、雑言を吐き捨てた。
アサコが歳三の刀を見ると、その刀身が欠けていた。
小太刀を打ち落とした時の刃こぼれであろう。
「野郎って、誰か知ってるの?」
アサコが問うたが、歳三は無言だった。
コトノのアパートに帰ると、側道に先程の大型バイクが停まっていた。
その重量感のある無骨なマシーンが、道行く通行人を睥睨している。
ホンダ・シャドウファントム750である。
「まさか、野郎!?」
歳三が慌ててコトノの部屋に向かう。
コトノとアサコもそれに追従した。
玄関のドアを乱暴に開けると──
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