第肆話「沖田総司」

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「なんかイメージと違うね、沖田総司って」 アサコの呟きに、コトノも頷く。 「あん、ヤツはあんな調子だぜ」 歳三が伝法に吐き捨てたが、心持ち不機嫌に見える。 「総司って、なんかこう優しい感じで笑顔が爽やかで、そして歳三と……いい仲だったり」 アサコが言い淀んだのは、歳三がギロリと睨んだからだ。 「いい仲!? どういう意味だ?」 「BL……だったり」 「BLってのは何だ?」 「男色というか衆道というかボーイズ・ラブみたいな……」 「阿呆か」 歳三は吐き捨てた。 「いやいや、この時代の乙女達は、歳三さんと総司の男の絆と愛に萌えているのですよ」 新選組ファンではないが、アサコは世の乙女を代表して言った。 「ねえよ」 新選組でも男色が流行った時があり、近藤の中島次郎兵衛に宛てた書簡にも「 局中しきりに男色流行仕り候」と嘆いているものがある。 歳三はそれを想い起こし、憮然と吐き捨てた。 「いいか、総司のヤツは今見た通り、掴み所のないヤツだ! 笑っている時はいいが、それ以外は短気に怒っているか、子供と遊んでいるか、甘味だぜ」 歳三がまくしたてた。余程衆道と言われたのが気に食わなかったのだろう。 「それにお前ぇらも感じたろ。 俺は時折、総司に狂気を感じるんだ。 だが新選組副長として、組の敵を斬るには好都合だ。 総司の狂気は”人を斬る道具”として、これ以上ないほど優れていたよ」
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