6日目・実験15

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「お兄ちゃんさ、前川さんに会ったんでしょ?」 手を後ろに組んだ遥が、笑みを浮かべる。 「……なんで前川を知ってるんだよ?」 「あはは。私もね、過去に参加したんだよ」 衝撃的な事実を、前触れもなく平然とした態度で明らかにした。 「……嘘だろ?」 「ううん、本当。前に友達の家に泊まりにいったでしょ? あの時に参加してたんだよね。声を発しちゃ駄目っていうルールだったけど、病気のお蔭で簡単だったよ」 前川が遥について訊いてきた時に覚えた違和感は、このことだったようだ。しかし気付いたところで状況は変わらない。 言葉を失っている遼平に、遥が追い打ちをかける。 「前川さんってさ、良い人だよね。」 「……なに言ってんだ。そんなわけないだろ」 子供のように無邪気に微笑んでいる遥に、遼平が怒声を上げた。 「平気で嘘を吐く大人達に比べて、前川さんは良い大人だよ。カウンセリングで病気も治してくれたし。お兄ちゃんだって治療してもらったんでしょ?私も実験をしたくて、お兄ちゃんは殺さないように頼んでおいたから、血液型を訊かれた時は驚いたよ」 「失声症が治ってたなら、なんで今まで喋らなかったんだ?それに私も実験って、どういう意味だよ?どうして参加したんだよ?」 里香が気にしていた血液型の真相は分かった。しかし他にも疑問は多々ある。矢継ぎ早に質問を投げかけている間、遥はクスクスと笑っていた。 「話す必要がなかったからかな?応募した理由は。パパとママが死んでから、お金がなくて困ったでしょ?だから参加したの。でも途中で目的が変わってさ。結局、給与は貰ってないんだよね」 そこまで話すと、ひとつ大きな息を吐いて間を取った。 「……私ね、前川さんの思想に共感したの」 「人間は恐ろしいってやつか?」 冷静な遥とは対照的に、遼平の声は微かに震えていた。目の前で微笑んでいるの は、間違いなく自分の妹。その妹が、あの前川の思想に共感したと言っている。 遼平は前川が舞に、過去に共感した人間がいると言っていたのを思い出した。まさか、その人物が遥なのだろうか。
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