3日目・実験5

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肩を落としていた志郎が顔を上げ、銃口を前川に向けたのは、その直後だった。 「また責任転嫁ですか。やはり人間は怖い。自分が殺害したくせに、私を憎んでいる」 言葉とは裏腹に、それまで無表情だった前川の口角が片方だけつり上がった。 「いいでしょう。どうぞ?ただし素人が頭部を狙っても外す可能性が高いので、この辺りを狙いなさい」 自分を捉えている銃口に怯える様子もなく、心臓の辺りを指差した。志郎は下唇を噛みしめながら両手で拳銃を構えており、鈍い光沢を放つ銃口は、前川の右胸を捉えている。 そして緊迫した空気のなか、引き金に掛けていた人差し指がゆっくりと動いた。それからは一瞬の出来事だった。 放たれた銃弾は胸の辺りに着弾し、前川は短い呻き声を上げて後方へと倒れた。志郎は拳銃を持ったまま、その場に膝から崩れ落ちた。全員の視線は、倒れた前川に集中している。 しかし死んだなどと、淡い期待を持つ者はいなかった。撃たれたにも関わらず、一滴も出血していないのだから。 「満足ですか?それでは17時となりましたので休憩とします」 状況が理解できていない被験者たちを尻目に、前川は倒れたまま腕時計を一瞥した。その光景に疑問が浮かぶばかりだった。 しかし遼平は、現状とは関係のないことが気になっていた。 前川が言っていた、偶然が重なるとはの意味。あれは何を示唆しているのだろうか。その疑問は胸にシコリとなって残ったのだった。
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