3日目・休憩

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しかし石塚の拳は空を切り、横に避けた前川の拳が腹部にめり込んだ。石塚は短い呻き声を上げて膝から崩れ落ちた。 体格差にも関わらず負けてしまった。喧嘩経験のない遼平が勝てるはずもない。しかし迷っている時間など皆無。握り拳に力をこめて、一歩踏みだした。その時だった。 前川が上着の内ポケットからスタンガンを取り出し、うずくまっている石塚の首筋へと押し当てたのだ。石塚の身体が仰け反り、そのまま動かなくなった。 「……殺したのか?」 恐怖で足が竦み、動けないでいる遼平の情けない声が部屋に響く。 「この低いボルト数では死にません。それに大事な被験者を、そう簡単には殺さないですよ」 前川はスタンガンを内ポケットにしまい、石塚を見下ろしながら嘲弄した。 「さて、これから本日の夕食を支給します」 気絶した石塚をドアの前から移動させると、前川は部屋を出ていった。途端に緊張の糸が切れ、遼平はその場に座り込んだ。 間もなくして前川が、食事をのせた2段カートを押しながら部屋に戻ってきた。 「石塚様の食事は不要ですね。他の皆様は存分に堪能してください」 遼平と里香、そして舞と志郎の前に2枚の皿が並べられた。皿の中央にはハンバーグが載っており、生のレタスと茹でた人参が添えられている。もう1枚には白米が盛られていた。それとペットボトル入りのスポーツ飲料が支給された。 「現在17時30分です。予定通り18時に実験を再開いたしますので、よろしくお願いします」 その場で軽く一礼をすると、和希の頭部を箱内へと戻してカートの上段に載せた。 「……和希」 不意に娘の名を呟いた。前川は志郎を一瞥すると、今度は涼子の死体を持ち上げ、強引にカートの下段へと載せた。はみでた腕と足がダラリと垂れている。 「……和希と涼子を返せ」 立ち去ろうとする前川の足首を、志朗が床に這いつくばりながら掴んだ。しかし前川は、蔑むような眼差しで見下ろすだけだった。
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