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「……許せない」
「なるほど。それは何故ですか?」
「どんな動機があったとしても、他人の未来を奪う理由にはならないからだよ。まともな神経の持ち主なら、殺人を許せないのは当たり前だろ?まともならな」
前川を揶揄しつつ、正論を言ったつもりだった。しかしスピーカーの向こうから、再び笑い声が聞こえてきた。
「殺人は許せないと回答しましたが、谷村様は石塚様の提案で私を殺害する計画を企て、実行に移しましたよね?思考と言葉が矛盾しています。説明を、お願いします」
「……それは」
遼平は言葉に詰まり、視線を床へと伏せた。
「ああ、自分に危害を与える存在ならば、殺しても構わないということですか?しかしそれでは、どのような動機でもという部分と矛盾してしまいますね」
「それは違う。俺はただーー」
「本当に殺人は許されない行為ですか?」
「……許されないし、許せない」
自信を持って否定することはできなくなっていた。殺人が許せないという考えは本心だが、危害を与えようとしたのも、また事実なのだから。
殺人を肯定してしまえば、前川と同類になってしまう。その思いからだけの否定だった。
「分かりました、質問は以上となります。ありがとうございました。さて、現在の時刻は19時10分です。就寝時間まで、ご自由にお過ごしください。なお言葉を発することは、谷村様も含め禁止ですので、ご注意ください」
前川の声が聞こえなくなっても、鼓動は遼平の胸を強く打ち続けていた。
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