4日目・実験7

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「谷村様。殺人は許せない、許されないと言っていましたね?」 鼓動が速まっていくなか、志郎を見つめたまま頷いた。 「その男性は、村山志朗様を殺害しました。許せない対象が目前にいますよ?  どうぞ、そちらの男性を殺害してください」 唐突な展開に、遼平は監視カメラに視線を走らせた。 「分かっています。如何なる動機でも殺人はと仰りたいのですよね?ご安心を。これは谷村様にとっては殺人でも、彼にとっては救済なのです。そうですね?」 「その通りです。誰でも構いませんから、僕を楽にしてください」 志郎の時にも言っていた屁理屈。殺すという結果には変わりない。しかし今まで明らかに違うのは、相手が死を望んでいること。一体なにからの救済を求めているのだろうか。 他の被験者が見守るなか、遼平は立ち尽くしていた。 「彼と出会ったのは、とある路地裏。暗闇に紛れ、震えていました。私が声をかけると、自分が怖いと呟いたのです。さらに事情を訊くと、彼は殺人衝動に悩まされていました。そこで今回のアルバイトに誘ったのです」 「……違う。僕はそんなこと言ってない。それに、お前が強引に連れてきたんだろ」 不意に男性が、被験者たちを見渡しながら怒声を上げた。同時に里香が肩をすくめる。 「彼に頼んだ内容は、私が指示した人間を殺害すること。彼はとても喜んでいました。人を殺したいという欲望を、満たせるのですからね」 「違う。本当は、この人を殺したくなんてなかった。でもお前が、お前がーー」 男性は両手で顔を覆い、声を張り上げた。その際に指先が見え、遼平は目を疑った。10本の指、その全ての爪が剥がれていたからだ。 「そして昨晩、私は村山志朗様を殺害するように指示をだしたのです。理由は、被験者としての役割を果たせないと判断したからです。彼は就寝中だった村山志郎様の首を絞め、弱らせたうえで、私が事前に渡していた金槌と包丁で殺害しました」 「それは指示に従わないと、またーー」 「そちらの男性は、自分の欲望を満たすために村山志郎様を殺害した醜い人間です。ですから谷村様、殺人は許せないという言葉を行動で証明して下さい」 男性の言葉を遮ると、選択を迫った。咽び泣いている男性は、先程から前川の言うことを否定している。
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