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傾斜が10度ほどの桜並木が美しい坂道を桜吹雪に目も向けず黙々と歩いていた。今日に限って坂を登っていく車も多い。それもそうか今日は入学式、子供の晴れ姿を見たい親が仕事を休んでまで出席したがる式典。通り過ぎる車の中では40代くらいの父親と新品の赤のブレザーに身を包んだ娘が笑っていた。
(たかが入学式だろ。喜ぶ要素が入学式のどこにあるんだか)
桜並木の先に校門を確認することができた。教師がせっせと新入生を校内へと誘導している。俺もその人波に乗って校内へ。汚れの見られない内装はこの日の為に準備され床がキュッキュッと悲鳴を上げる。
(痛っ)
不意に後ろからの衝撃。振り返ると両側をガッチリ女子に固められている男が俺の様子を推し量りながら謝ってきた。目にかからないように切られた清潔感のある黒のショートヘア、キリッとした澄んだ瞳、陶磁器のようなきめ細かい肌、顔のパーツには歪み一つ見られず、身体も彫刻のような美しさがある。
「すみません。ほら、愛菜(まな)燈(あかり)離れてよ」
「「むぅ」」
既に遅いような気もするが礼儀を欠かすまいと女子二人を下(さが)がらせる。緑ロングヘアと赤ツインテールの髪の女子が恨みがましそうに睨みを効かせる。八つ当たりも甚だしい、冷めた視線をこの男に向ける。
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