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受験も無事に終わり二人とも隣町にある美浜高等学校に入学が決まった春先。私は初めて朱里の家に遊びに行くことになった。住宅街の一角にある朱里の家は中学校から徒歩10分ほどのところにある
小さなケーキ屋さんだ。
「へー、朱里の家って、ケーキ屋さんなんだね」
「小さいけどね、時々お手伝いもしてるの」
「じゃあ、朱里ケーキとかつくれるの?」
「小さいころからお菓子作りは、お母さんに教わってるから、いろいろ作れるよ」
「私お菓子どころか料理だって学校の授業でしかしたことないのに、あこがれる」
正直に言うと調理実習でも、見ているだけで基本食べる専門だ。
「今度一緒にケーキ作ってみる?」
「え、いいの、私なんにもできないよ」
「大丈夫だよ、調理場はうちのを使えばいいし、作り方はお母さんが教えてくれるよ」
正直心配だった、だって私本当にお菓子なんて作ったことなかったんだもの。
その日朱里と遊んでいる間はずっと来週のケーキ作りのことで頭がいっぱいだった。
時はあっという間に夕刻を迎え、窓の外は夕焼けで真っ赤に燃えていた。
「じゃあね凛、また明日学校で」
「今日はありがとね、初めて来たけど朱里の部屋とっても可愛かった、来週のケーキ作り楽しみにしてるね」
「うん、学校で色々決めようね」
ケーキづくりはしてみたいけどきっと迷惑かけちゃうし。
その時の私はきっと複雑な顔をしていたに違いない。きっとそれに気づいているはずなのに朱里は何も私に聞いてくることはなかった。その姿はとても大人に見えた。
相手に迷惑をかけるのが嫌いな私は朱里の家から帰宅する途中に書店でお菓子の作り方、という本を購入して早速勉強することにした。
しかしケーキの材料さえあまりよくわからない私にとって、本に出てくる用具の名前を見ているだけでも、まるで難しい専門書を読んでいるような感覚に見舞われる。
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