第1話

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 その地方で魔王への反乱が起きたのは、先代魔王から新魔王への代替わりがきっかけだった。  先代魔王は善人とは言わないまでも、野心も無く無難に領地を統治していた。魔王は魔族ではあったが、残虐非道をはたらくことはなく、人間から見て畏怖の対象というよりも、不思議な力を持った領主なので、領民にとって「まあ、怒らせない方がいいな」ぐらいの存在だった。  人間世界には統治者がそれぞれいるが都市部を主に領土とし、数ある魔王領は辺境の自治区という扱いの不可侵領域だった。その土地に住む人間も代々、魔王領の領民として生きてきた。  新魔王が即位して以来、様々な改革がなされた。人間の身で魔王領に暮らすのは、細かいことにこだわらない人間が多かった。しかし、だんだんと暮らし向きは厳しくなり、一部に富裕な領民は生まれたものの、多くの生活水準は下がって言った。「競争による活力」とか、「自己責任」などと魔王軍の官吏は言い張ったが、領民の不満はマグマのように高まった。土地を捨て逃げ出す領民が増えるのを見て、魔王は自由意志による移住を禁じ、国境の人の出入りを封じた。  見かねた近隣諸国は兵を集め、領民解放の準備をした。あわよくば、魔王領の占領も考えていた。魔王軍は数は少ないが、魔力が使えるだけあって精鋭ぞろい。いたずらに軍隊を侵攻させても、ドラゴンなどを使役している魔王のこと、大火力で大勢の人死にを出しては元も子もない。  こういうときは、勇者が傭兵として派遣される。あくまで領民自身が雇ったという形をとる。  募集は冒険者ギルドが行う。各地から荒くれ者が集うが、軍隊に近い一団がある。国民皆兵の小都市ケントゥリアの戦士だった。  平時には鍛錬を兼ねて各地の紛争に派遣される騎士たちだった。どこの国でも厚遇されるので傭兵という感じでもない  いまなら、わかる。魔王が急に改革と言いだしたのには、現代日本人の入れ智恵があったことはまちがいない。領民に将来の繁栄を約束し一時の耐乏を求めた。それも2年が限度で不満が高まると弾圧の気配が高まった。やがて、人族の隣国への編入希望が高まった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!