謎の物件

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 手を合わせたり、指を奇妙な形に曲げたりして拝んでいた横で、神主さんみたいのが出てきてお香を焚き始めた。神主さんって言っても、神社の神主さんて意味じゃない。独特の白装束を纏ってて、他になんて呼んでいいかわからないだけだ。  バケツみたいな巨大なコーン型のお香の煙を被った時、俺は察知したよ。これがこの村の臭いの正体だってね。恐らくこの村独特のお香で、一般家庭でも焚くことがあるから、村全体に染み付いているんだってね。  ようやく儀式が終わった時、俺は責任者らしき人に呼ばれたんだ。「これから一週間、お盆休みだ」ってね。 今の儀式は打ち上げみたいなもので、神様か先祖様に無病息災でも祈っていたんだろうと思うことにしたよ。  ところが、このお盆休みもただの休みじゃなかった。制約付きだったよ。「決して家から出てはいけない」と言われたよ。更には電波がどうとか言って、携帯電話とテレビの使用が禁止された。そして案の定、「一五日の夜まで、毎晩焚くように」と、あのお香を渡された。神主さんが持っていた巨大なのじゃない。その辺の鍼灸院で見るような小さなコーン型のお香だ。やっぱり何かの風習なんだろうな。俺は渋々お香を受け取って帰ったよ。  農業が好きになって、更に制約が付いているとは言え、やっぱり休みはいいもんだった。元から携帯の電波はほとんど入らなかったし、特別連絡取りたい人もいなかった。テレビも見れなきゃ、それこそ一日のたくっているしかないんだが、それも嫌いじゃないさ。  毎晩お香も焚いた。目の前で焚くまでははっきりわからなかったが、そのお香は醤油の臭いが強かった。もしかしたら本当に醤油がしみ込んでいるんじゃないかとも思ったが、舐める勇気はなかったよ。  外出を禁じられて、食料をどうするか困ったが、毎朝近所のおばさんが食料を届けてくれたよ。お香もな、別にいらなかったんだが。お香を焚いて寝ると、当然だが煙たくなる上に、酸素が薄くなる。しかも臭いが臭いだけに、胃や胸がむっとして寝苦しいんだ。あんな臭いだれが喜ぶんだろうと思ったよ。……もちろん誰が喜ぶかはわかっているよ。
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