謎の物件

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 三日くらい経った日に、お香を焚くのをやめようかと思ったが、食料を届けてくれるおばさんが、前日焚いたお香の残り灰を確認するようにうなっていた。俺は嫌な予感がして、一日家の中からこっそり外を監視していたんだが、案の定ずっと監視されているのは俺の方だったよ。多分外出禁止令を守ってるか確認していたんだろうな。もしかしたら、休みの間だけじゃなく、この村に来てからずっと監視されていたんだろう。今思えば、逃げないように見張っていたんだろうがな。  俺はとっさにテレビを付けた。前まではチャンネル数が少ないながらも、民法のキー局は受信していた。それが全チャンネル砂嵐さ。外に出て屋根を確認すると、アンテナが取り外されていた。多分俺が休み前最後の仕事に出ている間にやられたんだろうな。  ここまで来ると、俺は急激に怖くなってきた。とんでもないいわくつき物件に手を出したんじゃないかってな。携帯で誰かに連絡取ろうかとも思ったが、電波は入らない。逃げ出そうにも周囲から監視されている。運良く逃げだせたとして、地理感もない隔離された僻地から、徒歩でどうやって逃げればいいのかわからない。俺は我慢して過ごすことにした。  いくら隔離された僻地でも、公序良俗や法に反することが公然と行われることもないだろうってな。ただ臭い香を焚いて、一週間のたくる。それが終わったらもう二週間ほど働いて、何十万円のバイト代を貰って、この村を去る。また安いいわくつき物件を探すか、それとも金に余裕がある内に今度こそまともな物件に住んで、定職を探すのも悪くないなんて考えていたよ。  ついに一週間後の八月一五日、お盆当日だ。やはり特別な日らしく、朝から様子が違ったよ。食料を届けてくれたおばさんは、前に神主さんが着ていたような白装束を着てた。食料と一緒に畳んだ白装束も渡されて、一日着ているように言われた。お香も、その日はいつもと違うのを渡された。そして最後に、巨峰を渡された。でも、「これはお供えようだから、決して食べてはいけない」と言われたよ。  いい加減村の風習にうんざりしていた俺は、返事も適当に一式受け取ると、家の中に戻ろうとした。だがおばさんは、「この場で着替えるまで帰らない」なんて言いやがった。俺は嫌々着替えたよ。
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