わけあり物件

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 あれが野良犬で、偶然マンションに紛れていたわけがない。大体、日本には野良犬が根本的に少ないんだ。……え? それは自分達が回収していたからだって? あんたらそんなこともしていたのかい? ……まぁいいや。話を戻そう。  それは地上げ屋連中が放った犬だってことは明らかだった。だが、さっきも言った通り、俺はそれでも平気だった。  問題は俺じゃなかった。かろうじてマンション残っていた住人は、俺みたいな態度を取らなかった。悲鳴を上げていたずらに逃げ回ったせいで、あいつは自分が人間より高位であると認識するようになっちまった。それでも俺はなんとか対等に過ごせていたんだ。  ついに住人は俺だけになった。更に人が減ったからには、俺が一月に貰える金額も上がるかと思ったが、オーナーはそんな大判振る舞いはしなかったよ。反対に大判振る舞いしたのが地上げ屋連中だ。  俺が近所のスーパーから買い出しをして帰ってきた時だ。エレベーターが開いたらあいつがいることはわかっていたから、俺は一呼吸おいてからドアが開くのを待った。だが、そこにいたのはあいつじゃなく、あいつらだった。そう、地上げ屋連中はドーベルマンを増量しやがったんだ。  こうなるともうお手上げだ、あいつらは元々集団で狩りをする生き物だし、群れると途端に強気になるんだ。……人間も同じだろって? そんな当たり前のことを誇らしげに言って、話の腰を折らないでくれよ。  もう俺は形振り構わずさ。食い物を適当に囮に投げてから、その隙に自室へと駆け込んだ。  ドアの前で吠え猛るあいつらに怯えながらの生活さ。警察にも助けを求めたが、地上げ屋連中は「ペットの散歩をしているだけだから問題ない」とか言いやがって、あろうことか警察はそれを鵜呑みにしやがった。  俺はいつか本当に食い殺されるんじゃないかとか、ここまで来たら地上げ屋が直接乗り込んできて俺を連れ去るんじゃないかとかな。  結果的にそれは杞憂だったよ。それから二日もしないうちにオーナーから連絡があった。企業と売却価格の折り合いがついたか、オーナーも脅されたかどっちかだろうけど、とにかく売却が決まったから、早いとこ出てってくれってな。  色々あったが、今思えば一月に十万円も貰えるなんて、夢のような生活だったよ。
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