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「今回手作りチョコを作ってみて、わかったことがあるんだ。作るまでにいろいろ考えることが、たくさんあるんだよ。どんな形にしようか、どのチョコが好みかなぁとか、チョコにどんな言葉を書こうかなぁなんて。他にも、包装紙はどんなものが好みだろうとかさ。いろんなことで悩んだけど、吉川を想いながら作っていく過程が、本当に楽しかった」
「そうか、それはすごい体験をしたんだな」
「うん! だからね、これは僕だけじゃなく吉川のことを想ってチョコを作ったり、買ってきてくれたコも同じだと思うんだよ」
「どういうことだ?」
吉川は瞳を見開き、不思議そうに首を傾げる。
「吉川は本命から貰うから受け取らないって言ったけど、今回みたいに、チョコを用意してる女子がいると思うんだ。チョコは受け取らないけど、彼女たちのまごころくらいは受け取れないかなって。ありがとうっていう、労いの言葉でさ」
僕がそう言うと、吉川は信じられないという顔をした。
「お前が言いたかったのって、そのことだったんだ――」
「う、うん。僕はちゃんとチョコを受け取ってもらえるし、両想いだから、これ以上望むものはないというか……。でも、彼女たちは別でしょう? なんだかかわいそうで。ありがとうの言葉だけで、実際に報われるワケじゃないけどね」
このタイミングで淳が告げた言葉が、俺の心の中でリフレインする。
――ノリトの優しさは、吉川だけに発動されるものじゃないー――
「ノリ……お前、みんなに優しすぎ」
ノリの体に回していた両腕を解くと、傍にある机に拳を打ちつけた。
ガンッ!
誰も居ない教室に、音だけが静かに響き渡る。
「吉川、あの……?」
「その優しさ、俺だけに向けられたらいいのに」
「もちろん吉川が1番だよ」
「順番なんか、そんなの関係ない。オンリーがいいんだってば」
俺の奇行にビクビクしているノリの背中を、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「マジでムカつく。淳が読めて、俺は読めなかったノリの気持ち。早く出逢っていたら、きちんと読めたのかな」
「淳くんがわかったのは、たまたまだよ。それよりもチョコあげるから、吉川機嫌直して」
背中に不機嫌な俺を載せて、ノリはズルズル引きずりながら、自分の席に向かう。
やっと席に着くと、机からチョコの箱を取り出して、体に回した手に押し付けられた。
「世界にたった一つだけの、吉川のチョコだよ。見た目が悪いのは、目をつぶって欲しいな……」
耳まで赤くなっているノリをしっかり確認してから、手渡されたチョコの箱を、じっと見つめた。
「キレイじゃないか」
「あまり、ジロジロ見ないでほしいよ。誤魔化してる部分がわかっちゃうから」
「照れるなって。どれどれ中身はなにかな?」
困り果てるノリの髪にちゅっとキスしてから、ガサガサと包装紙をはがして、箱をそっと開けてみる。
「おっ、サッカーボールじゃん。美味そうだな」
「食べる前に、その……チョコの裏側を見て」
「ん~、どれどれ。何なに? ボクのオネガイ、いつもきいてくれて、ありがとう。これからもヨロシク……」
「ほ、本当は好きとか、そういう気持ちを書いたほうがいいのはわかってたんだけどさ。大隅さんが傍にいて、それが書けなくて――。でもこれも、僕の気持ちなんだ。僕が望んだことを、いつも吉川はしてくれるから」
更に真っ赤になって俯くノリの耳元に、掠れた声で告げてやる。
「じゃあ今ここでノリを食べたいって言ったら、食べられてくれるのか?」
「むっ、無理に決まってるだろ。ここは教室なんだ!」
「俺に食べられたくない?」
「――っ、そんなイジワル、ここで言うなって」
「しょうがない。ノリにチョコを食べさせて貰うことで、手を打ってやろう。そうだな、こっちに来い」
恥ずかしがり屋のノリの手を引っ張り、一緒に窓辺へ向かうと、白いカーテンで二人の体を包むように、ふわりと隠した。
「簡易ルームのでき上がり。さぁノリ、チョコを食べさせて?」
「う、うん。ちょっと待ってね」
俺の手からチョコを受け取ると、一口大にパリンと折って、ちょっと照れた瞳を上目遣いしながら、強引に口元に押し込まれる。
(口移しでって、指示しておけば良かった。ノリってば、真面目なんだから)
「甘くて美味しい。ありがとな」
「そ、そう。良かった……」
「どしたー? おどおどして」
ノリは肩を竦めて、ちょっとだけ困った顔をしている。
「あ、うん。その……普段吉川の唇なんて、触れる機会がないから。今、一瞬触れちゃってドキドキしちゃった。この唇に僕は、いつも溺れてるんだなって」
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