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バレンタインデー・ラブトラブル:仲直りの甘いチョコレート
「てっきり弓道部の部室でチョコを食べると思っていたから、このまま帰るなんて意外だなぁ」
ぽつりと溢す僕に、吉川は含み笑いをした。
「ごめんな。ノリトと一緒にガツガツ食べたかったんだけど、バレンタインデーは今日だけだろ。淳に指摘されるまで、全然気がつかなかったしさ。どうしても渡したいし」
「ガツガツ食べるっていう表現、ちょっと戴けないなぁ。頭から食べられちゃいそう……。あれ、淳くんが指摘って?」
そんなことを一言も、淳くんは言ってなかったのに。と、不思議そうな顔して、隣にいる吉川を見上げた。
「屋上でさ、いろいろ言われたんだ。吉川のバカとか、親友を泣かせやがってとか。挙句の果てには、ノリトにチョコを用意したのかって言われて、ガーンってなった」
「そうだったんだ。でもね僕には僕の考えがあるように、吉川なりの考えがあるでしょう。いつも1番に、僕のことを考えているのがわかってるしさ。だからそれが、嬉しくて堪らないんだ」
ふたり並んで歩く商店街。本当は手を繋いで歩きたいけど、人目があるときはなるべく体の触れるギリギリの位置で、並んで歩いていた。
ちょっとした弾みで触れ合うときの衝撃は、嬉しいハプニングだ。見つめ合って、こっそり嬉しさを確認してしまう。
「ノリ……」
「吉川あのね、提案があるんだけど」
「ん~、キスして欲しいって?」
「違うから! もう公衆の面前で、そういうことを言うのをやめろよなっ」
赤ら顔の僕を、ニヤけた表情でじっと見つめた吉川は、なにを考えているのやら。
「して欲しいクセに。顔にそう書いてあるぞ」
「確かに、そうなんだけどさっ!」
「え――?」
「うわっ」
いつもなら否定するつもりが、思いっきり肯定してしまったゆえに、お互い慌てふためいた。更に真っ赤になったであろう頬をそのままに、片手で口を覆う。そんな僕を見て、吉川もなぜか赤くなった。
「どうして、吉川まで赤くなってんだよ。照れる必要ないよね?」
「だってお前が欲しいなんて言うから、いろいろ思い出してだな」
「も、元はといえば、吉川が教室であんなことをしたのが原因なんだぞ。その続きを放課後すると思って、ちょっとだけ期待した僕って、すごくバカだよね……」
「その言葉、何かおかしい。それってすごく期待した僕って、ちょっとだけバカだよね。じゃないのか?」
お互い赤ら顔のまま、見つめ合って立ち止まる。
「吉川、指摘してくれるのは、大変ありがたいんだけど、ここでする話題じゃないよ。君の顔を見てると、妄想が現実化しそうで何気に怖いし」
「だってノリが提案があるっていうから、思わず――」
「提案っていうのは、チョコの話だから。男ふたりでバレンタインコーナーに行くのは、すっごく目立つでしょ」
ズリ下がってないメガネを、忙しなく上げながら言うしかない。吉川のもの欲しそうな視線が僕の落ち着きなさを、これでもかと助長させていた。
「まぁな。あとチョコは千円以内で選んでくれ」
「まぁなって、少しは気にしろよ。千円以内ならお菓子コーナーにあるチョコで手を打つから、そこに買いに行こう?」
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