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言いながら、すぐ傍にあるスーパーを指差す。
「ノリ、そんなんでいいのか?」
「うん。僕って質より量なんだ。千円もあったら、たくさんの種類を買ってもらえるもんね。グルコのポッチーにアーモンドチョコ、ミルキーキスもいいなぁ」
「あ~、ミルキーキス。俺も好き。口溶けがいいよな、とろける感じで」
ノリの体に置いてその体温で溶かして食べるのも、これまたいいよなぁ……なぁんて、不埒なことを口にする吉川を完全スルーして、真面目に答える。
「じゃあもう、コレは決まりだね。どうせ明日は部活もないんだから、お互いのチョコを持ち寄って、お茶会にしようよ」
「チョコを持ち寄って……チョコプレィ――」
「飲み物は何がいいかなぁ。無難なトコでいくと、紅茶なんだけど。きっとチョコばかりだと飽きるから、何か箸休めになりそうなお菓子でも買おうかなぁ。どう思う吉川?」
横に並んでいる吉川を見た瞬間、愕然として立ち止まった。
「ちょっ、大丈夫か吉川! 鼻血がポタポタ滴ってる!」
慌ててポケットからティッシュを取り出し、吉川の鼻の穴に押し込んでから、首の付け根を叩いてやる。
「昼間、チョコを食べさせすぎちゃったのかな。顔も赤いし、体調が良くないんじゃ……」
「ノリと一緒にチョコが食べれると思ったら、ついコーフンしてしまって」
「お茶会ごときに興奮するなんて、まるで子どもみたい。ほら、そこのベンチで少し休もう。まったく……手がかかるんだから、吉川ってば」
「ありがと。ノリって、やっぱ優しいのな」
デレデレしている吉川にしっかりと寄り添い、スーパーの奥にあるベンチに消えていく姿を、少しだけ離れた後方でそっと見守るふたり分の影があった。
「吉川のヤツ、あんなトコで鼻血を出すなんて、きっと卑猥なことを考えていたに違いない」
「ケンカしてもすぐに仲直りができちゃうふたりは、いいなって思います」
「大隅さん、いつもあんなの見て、萌えぇってなってるんだ?」
うげぇーと言いながら肩を竦める淳に、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた大隅。
「萌えっていうか、癒される感じに近いかもです。吉川さんとノリトさんのアンバランスなところも、目が離せないんですけどね」
「あー、アンバランスさはわかる気がする。あの危うさで、よく付き合ってられるなーって思う」
「でもでも何かあるたびに、ふたりのキズナが強くなっているのが、見ていてわかるんです」
「何かあるたびに、大隅さんがフォローしてるしな」
苦笑いしながら言う淳を、大隅は眩しそうに瞳を細めてそっと見上げる。
「今回は淳さんも、ふたりのためにフォローしたじゃないですか。ノリトさんが、いつかに恩返しができるかなって言ってましたよ」
「恩返しか。そんな必要ないんだけどな。アイツからいろんなもの、たくさん貰ってるし」
「淳さん?」
「大隅さんさー、明日の午後は暇?」
見上げる眼差しに、淳は優しい笑みで問いかけた。
「はい。特に用事はないですけど」
「昼から、買物しようと思ってるんだ。新しいジャージを買うんだけど、それを見繕って欲しくて」
「わっ私で、いいんでしょうか?」
「うん。貰ったチョコのラッピング、クラシカルな感じがいい趣味してるなーって思ったんだ。大隅さんの見立てが良さそうだから、思い切って誘ってみたんだけど?」
ノリトのアドバイスのお蔭で、思ってもいなかった急な展開に、大隅のドキドキが止まらない。
「ダメかな?」
「私でお役に立つなら、どこだってついて行きます!」
微笑み合うふたりを、オレンジ色の西日が優しく包み込む。
吉川とノリト同様にこのふたりの恋物語も、次回さらなる展開へ――。
乞うご期待!
ホワイトデー編に続く!
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