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いろいろ買い物を終えて店から出ると、まっすぐ大隅さん家に向かう。ご両親が共働きということで、遠慮せずに台所をお借りることができた。
適度に広いキッチンで肩を並べて、チョコレートを湯せんする。甘いチョコレートの香りが、鼻をくすぐっていった。
その甘い香りに誘われたので、思いきって大隅さんに質問してみる。
「大隅さんてさ、淳くんのどこが好きなんだい?」
ガチャン!
「あ、大丈夫?」
「大丈夫です……。ノリトさんって、ダイレクトに聞いてくるんですね。ビックリしちゃった」
大隅さんはすごい勢いで、手に持つゴムベラを動かしまくった。
「淳くん、見た目の格好良さはもちろんなんだけど、他にもどんなところがいいのかなって、個人的に興味があってさ」
ボソッと言いながら横目で見ると、俯いて頬を赤く染めている姿がそこにあった。恋する女の子って感じですっごく可愛いなぁと、僕の口元に自然と笑みが浮かぶ。
「淳さんのどこが好きか。そうですね、一言で表現すると、自由って感じかなぁ。ちゃんと自分を持ってるからブレないし、人に左右されないで行動してるところがいいなって」
「そうだね、そういうところに助けられてることが、実際たくさんある。大隅さんとは違うクラスなのに、よく理解してるなぁ。さすがは腐女子の観察眼!」
「それ、褒めてる気がしませんよ。そういうノリトさんは、吉川さんのどこが好きなんですか?」
ガチャン!
「危なかった……。危うく中身を、全部こぼすところだった。これじゃあ、お店でしたやり取りの繰り返しじゃないか。止めようよ、大隅さん」
「私はちゃんと言ったんですから、ノリトさんも告白してください。フェアでいきましょうよ」
「フェア、ねぇ」
自分の気持ちを吉川以外に語ることになろうとは、思いもよらなかった。しかも大隅さんには、いろいろとお世話になっている手前、むげに断れない。
「吉川の好きなところはやっぱり、一生懸命なところかな。サッカーのプレイもそうだけど、何かあったら友達のために一生懸命に奔走するし、応援してくれるファンのコにもできるだけ声をかけて、お礼を言ったり。でもね、そういうのを一生懸命やり過ぎて、無理がたたることがあってさ。いつも月末になるとアイツ、風邪を引くんだよ。先月なんて病院行って、インフルエンザを貰ってくる始末でさ。僕が注意しても聞かないんだ。ムダに頑張っちゃって。大隅さんからも、注意してもらえないかな」
最後はなぜか文句になってしまった僕の言葉に、大隅さんは苦笑いを浮かべた。
「ノリトさんが言ってもダメなら、私が言ってもきかないと思いますよ。でもやっぱり吉川さんの話題だと、ノリトさんは本当に饒舌になりますよね」
「あー、言われてみたら、そうだね。何か吐き出してるみたいなところが、あるのかもしれない。ほら僕らの付き合いって、おおやけにできるものじゃないから、隠してるでしょ。だから知らない間に、ストレスになってるのかなぁ。ゴメンね、愚痴っぽくって」
謝りながら目の前で湯せんしている、ホワイトチョコに目をやった。
(このホワイトチョコの白さみたいに、僕らの関係はキレイなモノじゃないんだよな。混ぜれば混ぜるほどに、濁ってドロドロとした――?)
「大隅さん、何だかこのチョコ、変な気がするんだけど?」
「きゃー、ノリトさんっ! それは湯せんに使ってるお湯が、チョコの中に入っちゃったんですよ。見事に分離しちゃってますぅ」
「……そういう大隅さんのも、同じようになってる」
「じゃあ、さっきのガチャンっていう衝撃で入っちゃったんだ。ショック……」
顔を見合わせて、お互いクスクス笑い合った。
「僕らは簡単な作業って舐めていたから、痛い目にあったんだろうな。これからは、真面目にしないといけない。がんばろう、大隅さん!」
「ノリトさん……。はいっ! 一緒にがんばりましょう」
吉川が感動してもっともっと僕のことを好きになってくれるような、そんな物を作りたい。気持ちを新たに、また一からチョコを溶かすところから作業を開始したのだった。
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